腰痛を訴える人の率は高く、全人口では約10人に1人、65歳以上では約5人に1人が腰痛を自覚しています。整形外科を受診される患者の中で最も訴えの多い症状が腰痛です。
腰痛が起こる病気はたくさんあり、内臓の病気でも腰痛が起こることがありますが、腰椎(ようつい:体を支える腰の骨)またはその周辺の組織・筋肉や神経に何らかの異常がおきている場合がほとんどです。
腰痛は幅広くあらゆる世代に見られますが、年代によっても原因に特徴があります。腰椎分離症などは、スポ-ツを活発に行っている10歳代前半の伸び盛りの青少年に、はじめは運動時の腰痛という形で起こります。高齢者の女性では、骨粗鬆症による腰痛がよく起こります。
また腰痛は発症時期により、突然起こったものなのか(急性腰痛)、いつの間にか始まって長く続いているものなのか(慢性腰痛)に大きく分けられます。慢性腰痛はひとくくりに「腰痛症」と呼ばれることもありますが、原因がわかればそれぞれの病名がつけられ、治療方針に沿って治療を進めていくことができます。
治療を行う上でひとつ非常に重要なことがあります。それは腰だけが痛いのか、あるいは腰の痛み以外におしりから太もも、ふくらはぎにかけての下肢(脚)の痛みやしびれも同時に出現していないかということです。腰椎の中には神経が通っており、それが分かれて下肢の運動や感覚をつかさどります。腰椎の病気で神経を圧迫すると、下肢が悪くないのに下肢の痛みやしびれが出現することがあります。ひどい場合は、下肢の力が入りにくくなる(麻痺)、少し歩くと痛みやしびれで休まなければいけない(間欠性跛行:かんけつせいはこう)、排尿や排便の際に違和感を感じる(膀胱直腸障害:ぼうこうちょくちょうしょうがい)といった神経の症状が出現することがあります。人間は痛みには敏感ですぐに受診する人が多いのですが、こういう痛み以外の神経の症状はひどくなるまで放置したり、年のせいにしてしまう傾向があります。ところが、痛み以外の神経の症状も当然軽視できないサインで、治療が遅れると回復が難しくなる場合があるので、神経症状出現の際には整形外科専門医の診察を受けられることをおすすめします。
大まかな診察の流れを記します。
どこにどんな痛みがいつ頃からあるのかなど詳細に聞き取ります。整形外科には関係なさそうな症状やずっと以前のけがの情報が役立つこともあるので、出来るだけ詳しく医師に伝えてください。
整形外科の診察は、実は問診の前から始まっています。患者さんが名前をよばれて入ってくる時の姿勢や、歩き方やその速度などから以外に多くの情報を得られます。患者さんの訴える症状に沿って診察を進めていきますが、関節の動く範囲を調べたり、痛いところのはれや変形がないかなど外見上の変化を確認します。また筋力を調べたり、柔らかいハンマーや筆などをつかって神経症状を確認します。下肢(脚)を持ち上げたりして、神経の症状の現れ方を診たりすることもあります。腰や下肢を動かすと痛みやしびれが増強するようなことがありますが、それが大事な診断材料ともなります。ただし痛みでどうしてもつらいときはあらかじめ医師に伝え、無理をしなくてもよいので、安心して受診してください。
画像検査は原則として問診や診察の裏づけをとるために行われます。レントゲン撮影を行い骨の変形やゆがみなどを確認し、治療方針を決定します。レントゲンは骨しか写らないので、神経の症状が著しい場合などはMRIという磁気を用いて体の断面をみる(神経や筋肉などに有効)検査を追加しなければいけないときがあります。また、骨粗鬆(しょう)症(骨粗鬆症の項を参照して下さい。)が原因と考えられるような腰痛の場合は骨密度の測定や採血、尿検査が必要な場合もあります。
治療の基本となるのは痛みを改善するための対症療法です。骨の変形やゆがみが元に戻るわけではありません。治療は、消炎鎮痛剤・筋弛緩剤・ビタミン剤などの内服、シップ、痛みが強い場合のトリガ-ポイントブロックや硬膜外(こうまくがい)ブロックなどの注射が中心となります。また腰部脊柱管狭窄症などによる間欠性跛行症状が強い場合は、脊髄神経への血流をよくする内服薬や注射(点滴など)を行うこともあります。そのほかコルセットを装着する装具療法や牽引療法・理学療法などがあります。家庭内で出来ることとして体操療法も重要です。腰を支えている背中やお腹の筋力を維持することは痛みの予防や軽減につながります。当クリニックではこうした体操も指導します。対症療法を行っても効果がなく、痛みが著しい場合や、病気の状態によっては手術が必要になることがあります。