肩こりと思っている方の中にも、実は腕から手にかけての痛みやしびれを伴うことがあります。これは頚椎(首の骨)の中を通る神経の症状が発生しています。神経症状が出現する代表的疾患(病気)に頚椎症、頚椎椎間板ヘルニアがあります。
頚椎疾患(病気)は症状から考えるとわかりやすいのではないかと思い、以下の順で説明します。
①局所症状
首、肩甲骨付近の痛みや肩こりなどの症状が出ます。首を動かすと痛みが増しますが、手のしびれはありません。
②神経根症
主に片方の首~肩~腕~手にかけての痛み、しびれ、力が入りにくいなどの症状です。これは脊髄の枝(神経根)の障害によるものです。
具体的には
背中で特に肩甲骨周囲あたりから痛みを感じ始めた。
夜間の肩甲骨周囲の強い痛みのために寝られない、朝方に目が覚めてしまう。
非常に痛みが強いために首を反対の手でおさえながらの姿勢をとる方が多い。
片方の肩、腕から手指につながるようなしびれや痛みが出てきた。
天井を見上げ首を後方へのけぞる姿勢で痛みが増強する。
片方の上肢の力がはいりにくく、握力が低下する。
などの症状です。
③脊髄症
両方の上肢から手指、体幹(身体の腹部側と背中側の両方)、さらに両方の下肢から足の指や足底部がしびれます。(特に足底部のしびれは、ものが張付いた感覚で気持ち悪いと患者さんは訴えられます。)手指の動きが悪くなったりします。たとえば、ぼたんかけがむずかしくなる、はしで食べ物をつかみにくい、字が書きにくいなどの手指巧緻(こうち)障害が出現します。ひどくなると両下肢の力がはいりにくく、膝が抜けたような歩き方になります。また階段をおりるのがこわくなり、手すりなどを必要とします。これを下肢痙性麻痺(けいせいまひ)歩行といいます。また排尿や排便に異常が出ます。(膀胱直腸障害)。これは頚椎(首の骨)の中を走る太い神経(脊髄)が障害されることによるものです。
背骨をつなぎ、クッションの役目をしている椎間板は20歳過ぎから変性(老化現象)が始まると言われます。この変性が進むと椎間板にひびが入ったり、徐々につぶれてくるなどの変形をきたします。椎間板軟骨の一部が後方に突出したのをヘルニアといいます。
椎間板の変性が進むと、それに伴い骨が変形して骨の出っ張り(骨棘:こつきょく)が生じたり、背骨をつなぐ靭帯が厚みを増してくるなどの変形が起こります。
不良姿勢、繰り返しの重量物の挙上、頚椎に過度の負担のかかる運動などはこの変性や変形を早める可能性があります。
①局所症状
●ヘルニアの変性や頚椎の骨の変形などが原因で、周辺の筋肉に負担がかかり局所症状が出現します。
②神経根症
●ヘルニアが頚椎の間(椎間孔)を通って腕に走る神経根(脊髄神経から分岐し腕にのびる神経)に触れると頚椎椎間板ヘルニアの神経根症になります。
●椎間板の変性に伴い骨が変形して骨の出っ張り(骨棘:こつきょく)を生じますが、これが神経根(脊髄神経から分岐し腕にのびる神経)に触れると頚椎症性の神経根症になります。
椎間板から突出したヘルニアにより神経根が圧迫されるものを頚椎椎間板ヘルニアの神経根症、椎間板の変性などに伴い骨が変形して骨の出っ張り(骨棘)により神経根が圧迫されるものを頚椎症性神経根症といいます。
③脊髄症
頚椎の中を通る中枢神経である脊髄の通り道(脊柱管)が窮屈になり、脊髄本管が圧迫されると③脊髄症を生じることになります。
●椎間板ヘルニアにより脊髄本管が圧迫されると頚椎椎間板ヘルニアの脊髄症(せきずいしょう)を生じることになります。
●椎間板の変性などに伴い骨が変形して形成される骨の出っ張り(骨棘)や背骨をつなぐ靭帯が厚みを増して脊髄本管が圧迫されると頚椎症性脊髄症を生じます。
神経根症(②の症状)および脊髄症(③の症状)の有無を確認することが重要です。症状からその可能性が考えられる場合は、単純レントゲン撮影を行うことで、頚椎から突出する骨(骨棘)を確認することができます。ヘルニアや脊髄への圧迫などはMRI検査により調べます。
良い姿勢を保ち、頚椎に対する負担をできるだけ減らすことが重要です。一般的には首を軽く前屈気味にするほうが神経への刺激が少なくなりますが、個人差がありますので整形外科専門医とよく相談してください。
治療としては
①局所症状や②神経根症状にたいしては薬物療法(消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、点滴、痛みの部位に痛み止めの注射を行うブロック療法)などにより筋肉や神経の炎症を抑えることで痛みを改善します。
首を回すなどの動作で痛みが増強する場合は動きを避けるため頚椎カラ-装具を用いることがあります。また頚椎牽引療法、温熱療法、干渉波療法なども有効です。ただし神経根症状では、治癒するまでに3~4週間程度が必要になることもあります。 手術にいたることはめったにないのですが、神経根症状で片方の上肢の力が入りにくいなどの運動麻痺症状が出現した場合は手術を考慮することがあります。
③の脊髄症状が出現し、手指巧緻障害が著明、下肢の麻痺があり歩行障害が生じている場合(痙性麻痺:けいせいまひ)、排尿や排便に異常がある場合(膀胱直腸障害)は、手術を考慮します。
大切なことは首~肩、肩甲骨周囲に痛みを感じ始める初期に正確な診断を行い、直ちに治療を開始することで随分と痛みの軽減が早められます。この症状がある場合にはなるべく早く整形外科を受診されることをおすすめします。