腰痛の大きな原因であるにもかかわらず見逃されやすいのが骨粗鬆(しょう)症です。高齢化社会では骨粗鬆症という病気が「骨が弱くなり骨折しやすくなる病気」として認識され始めていますが、骨粗鬆症を「骨の老化現象」と考え、病気とは考えず、特に治療をしない方が多くおられるのも現実です。完全な老化現象であれば一旦減ってしまった骨の量は戻らないことになります。しかしここで重要なことは、治療をすることにより、年齢とともに減少する骨の量を維持するだけでなく実際に骨量が増加する患者さんもおられるということです。
本来、患者さんにとって手術は嫌なものです。しかし、骨粗鬆症で起こりやすい大腿骨頚部骨折(太ももの付け根の骨折)を受傷されると、残念ながら多くの患者さんは手術をうけざるをえません。整形外科の多くの疾患は癌のように命に関わらないため、絶対的な手術をうけねばならない患者さんは少ないと思われます。しかし、大腿骨頚部骨折を放っておくと、寝たきり状態になり、肺炎、認知症、床ずれなどいろいろな合併症を引き起こし命の危険を伴います。患者さん自身にとっては骨折を生じて寝たきりになることも怖いのですが、それに伴う家族の介護の問題も非常に心配されます。一回の転倒で患者さんおよび家族の人生が、大きく変わってしまう可能性があるのです。そうならないために、転倒予防の筋力訓練も大切ですが、転倒した際に骨折をおこさない骨にしておくことが大切なのです。
骨粗鬆症は高齢者に多いため、高齢化が進むわが国では患者数が増加しており、現在ではおよそ1,100万人の患者さんがいると推定されています。また圧倒的に女性に多く、50歳代から急速に増えはじめ、発症頻度は男性のほぼ3倍となっています。これだけ多くの患者さんがおられると推定されているため、内科医が様々な合併症の予防に高血圧、糖尿病、高脂血症を治療するように整形外科医は全力で骨粗鬆症を予防、治療する必要があります。
それでは、骨粗鬆症についてくわしく説明します。
骨粗鬆症は単一の疾患ではなくて、いくつかの病型にわけることが出来ます。
まず、原発性骨粗鬆症は若年性骨粗鬆症と退行期骨粗鬆症に分けられます。退行期骨粗鬆症はさらに閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症に分けられます。女性の場合、閉経後女性ホルモンの減少により急激に骨吸収がすすみ、骨粗鬆症が進行します。老人性骨粗鬆症は、名前のとおり加齢とともに骨量が減少してくる状態です。このように、退行期骨粗鬆症は誰もが直面する疾患ということになります。
骨密度・骨量は思春期から20歳位までに最高値に達し、40歳頃まではその値が保たれ、その後減少することが知られています。このようなことを考えると、若い頃にどれだけ骨量を貯金していたかが重要になりますので、若い方もしっかりカルシウムを取りましょう。
次に続発性骨粗鬆症についてです。代表的なものにステロイド薬を服用されている方にみられる、ステロイド性骨粗鬆症があります。ステロイド薬を服用されておられる方で、骨粗鬆症の治療薬を処方されていない方は今後骨折を起こす可能性が高いですから一度主治医に御相談ください。また、糖尿病、関節リウマチ、肝機能障害、胃切除後などにも骨粗鬆症が併発します。このように、各種の原因に基づいて起こる骨粗鬆症を続発性骨粗鬆症といいます。これらの疾患の方も、一度骨密度測定をされ骨粗鬆症のチェックを受けられることをおすすめします。
当クリニックでは骨量測定(骨密度)はDXA法により2種類のX線を照射して全身の(手首の骨)の量を測ります。またX線撮影で、骨の状態や圧迫骨折の有無などを調べます。