小学生と高校3年生の息子が二人いて、どちらも野球をしているのですが、投球時に、肘の内側(小指側)の痛みが長く続いています。どんな障害が考えられますか?
野球の投球時に、肘の内側(小指側)の痛みをおこす代表的な内側型野球肘は上腕骨内側上顆骨軟骨障害(じょうわんこつないそくじょうか こつなんこつしょうがい:リトルリーグエルボー)と肘内側側副靭帯損傷(ひじないそくそくふくじんたいそんしょう)です。
ところでまず、内側型野球肘を理解することで大切なことは、成長期(小学校から中学生)と成人期(高校生以降)に発生するものは全く別のものであると考えなければいけない点です。
というのは、内側型野球肘は、成長の段階に応じて損傷形態が変わってきます。成長過程を通じて靭帯の最も弱いところは内側側副靭帯が付着している上腕骨内側上顆(じょうわんこつないそくじょうか)という骨、軟骨の部分です。はじめは軟骨を介して骨に付いているため、その軟骨部付近での剥離(靭帯が軟骨とともにはがれてしまいます)が多いのです。当然軟骨や靭帯はレントゲンには写らないので、このような損傷に対して不十分な治療のまま成長すると、将来再び肘痛がおこり、そのときに骨になった軟骨がレントゲンに写って「骨が傷(いた)んではがれている」といわれて驚くことになります。このように、レントゲンで見つかる上腕骨内側上顆骨軟骨障害は、多くの場合、小学生低学年からの数回にかけておこった骨軟骨損傷で、いわば積み重ねの傷跡なのです。小学生低学年ではまだ筋力も充分でなく、さほど速い球も投げられないため、このような障害があっても肘の痛みが軽く、障害に気が付かなかったり、痛みを我慢すれば投げられることが多いのです。しかし、小学生高学年から中学生にかけて速い球を投げられるようになればなるほど痛みが強く、頻回におこるようになります。そして障害に気がついたときには、積み重ねの骨軟骨障害となってしまっているのが現状なのです。まれに遠投などの1回の強い外力で発生する剥離骨折型もみられます。
その後、骨・靭帯の成長が終わり靭帯が軟骨ではなく骨に直接付着するようになると(高校生以降:成人期)、内側側副靭帯が付着している上腕骨内側上顆の骨が強いため靭帯実質部で断裂することが多くなります。(肘内側側副靭帯損傷)まれに靭帯付着部の剥離骨折がおこることもあります。1回の衝撃で靭帯断裂がおきた場合にはギプス固定を行うことにより保存的治療が可能ですが、野球肘の場合、そのような損傷は少なく、繰り返される、慢性的なストレスが徐々に靭帯を損傷し、靭帯断裂などを引きおこすことが多いのも事実です。この障害では、日常生活上は全く痛みを生じませんが、投球時に肘の内側部の痛みがあり、強くボールが投げられないことになります。投球時に限った痛みのみが症状であるため、診断が困難で、痛みを繰り返しながらも投げ続けた結果、治療が遅れ、手術を余儀なくされることが多いのです。すなわち成人といえども、慢性的な外反ストレスによる肘内側側副靭帯損傷を予防することが選手寿命を維持するために不可欠なのです。
ご質問の小学生の息子さんは上腕骨内側上顆骨軟骨障害(リトルリーグエルボー)の可能性が、高校3年生の息子さんは肘内側側副靭帯損傷の可能性が考えられます。
内側型野球肘の障害があるかどうかを、整形外科を受診しきっちり調べることが重要です。