筋力はたがい違いに並んだ筋繊維(きんせんい)の束(たば)が収縮(しゅうしゅく:ちぢむ)してかみ合うと発生します。ゴムひもと同じで、伸ばされながら収縮しようとすると最大筋力が発生します。強く収縮した筋肉がそのまま固まってしまった状態がこむら返りです。その筋力に筋繊維が負けたときに「肉離れ」は起こります。強い張力が急に加わり筋肉が部分的に断裂することを言います。まれに筋肉や腱が完全にきれることがあります。筋肉の動きは、かみ合った指が近づいたり、離れたりする状態に似ています。
ダッシュや全力疾走などの動作中に急激な痛みが出現することが特徴です。
①大腿四頭筋(だいたいしとうきん)(大腿前面):膝を伸ばす筋肉です。
表層が大腿直筋(だいたいちょっきん)、中間層が内側広筋(ないそくこうきん)、外側広筋(がいそくこうきん)、そして深層が中間広筋(ちゅうかんこうきん)です。
②ハムストリング(大腿後面):膝を曲げる筋肉です。
半膜様筋(はんまくようきん)、半腱様筋(はんけんようきん)、大腿二頭筋(だいたいにとうきん)を総称してハムストリングと呼びます。
●大腿四頭筋(大腿前面)、ハムストリング(大腿後面)の場合は、急激なダッシュやストップ、ターン時に起こりやすくなります。
●大腿部の肉離れは、10歳代から20歳代に多く起こります。
③下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)
腓腹筋(ひふくきん:内側と外側にあります)、ひらめ筋の総称です。
●腓腹筋、ひらめ筋の場合は、テニス、ランニングやジャンピング、キック時に起こりやすくなります。
●下腿部の肉離れは、中高年に多く起こります。
当クリニックでは、受傷後最初の診察で、超音波診断装置(エコ一)検査で筋損傷の部位やその程度、血腫(けっしゅ:血のかたまり)の有無とその程度を調べます。血腫の範囲が広範に及んだり、増大する場合は血腫の穿刺吸引(せんしきゅういん:注射期で血腫を抜きます。)が必要となることがあります。エコ一で血腫内を観察し、血腫内に液状部分があるか、エコ一のプローブ(探触子)での圧迫で液状部分が変形するのかを確認することによって吸引可能かが判断できます。血腫の吸引を行う場合は、エコーガイド下にて穿刺吸引を行うと安全かつ簡便に行えます。
またエコ一検査は、断裂筋肉の修復・回復や血腫の吸収など治癒過程の観察にも有用です。
肉離れの大部分は保存的(手術なし)に治療を行います。受傷当初は断裂筋肉部分での出血があり、強い腫れ(はれ)やむくみ(浮腫:ふしゅ)を認めることが多いので、当初は急性外傷の処置(RICE処置:Rest安静、Ice冷却、Compression圧迫、Elevation挙上)を行ってください。
痛みが強く、荷重歩行が困難な時にはギプス固定や松葉杖を用いて免荷(めんか:体重をかけないこと)をすることもあります。
断裂筋肉の修復・回復や血腫の吸収には約4週間かかります。程度が強いときは6~8週間ほどかかることもありますが、あせらず完全に治ってからスポーツに復帰することが望ましいです。
スポーツ復帰後も、肉離れは、瘢痕(はんこん)部分が再断裂を生じ、再発を繰り返すことがありますから、スポーツの前にウォーミングアップ、ストレッチを十分に行いましょう。
ストレッチ痛がとれて健側(けんそく:肉離れをしていない側)と同じ通常のストレッチ感(伸ばされている感じ)になるまでジャンプやダッシュは避けるべきでしょう。
本格的にスポーツに取り組んでおられる方は、スポーツを始める前に脚の太さや筋力を測定してもらいましょう。健側との差が大きければ、筋肉のアンバランスを起こし再発の原因となります。